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概要

高校政治経済資料集

90 ?第2章日本国憲法の基本的性格●3●憲法第9条に関する違憲訴訟一覧第1編現代の政治事件とそのあらまし1957(昭32)年7月8日,第一審憲法9条は,自衛権を否定する駐留米軍は,9条の禁ずる陸海空砂米空軍の使用する都下砂川町(東京地裁)ものではないが,自衛のための戦軍その他の戦力の保持に該当し,憲の立川飛行場拡張の際,これ1959・3・30力を用いる戦争および自衛のため法上その存在は許されない。刑事特川を阻止しようとするデモ隊の(通称「伊達判決」)の戦力の保持も否定している。別法は無効であり,被告人は無罪。一部が飛行場内にはいり,日(無罪)事憲法の平和主義は決して無防安保条約の内容が違憲か否かの法米安保条約第6条に基づく行政協定に伴う刑事特別法2条跳躍上告審備・無抵抗を定めたものではない。的判断は,司法裁判所の審査にはな件平和と安全を維持するため,必要(施設又は区域を侵す罪)に違反するとして起訴された。恵え北海道恵庭町で牧畜業を営庭にむ野崎兄弟は,陸上自衛隊島松わ事演習場の演習による爆音に悩まされ,1962年末,演習で使用件中の通信線を切断,自衛隊法121条違反で起訴された。長1968年(昭43)年5月,防衛沼庁は第三次防衛力整備計画にナ基づき,北海道長沼町の馬追イ山の国有林に航空自衛隊のナキイキ基地を建設することを発基表。この国有林は水源かん養地保安林のため,水害を心配す訴る現地農民は,同基地建設の訟ための国有保安林の指定解除処分を違憲として提訴した。茨城県小川町に航空自衛隊の百里基地をつくる際,基地建百ひゃく設予定地内に土地を所有して里りいた住民(原告)が建設反対派基地訴訟住民(被告)に一部土地を売ったが,残金の支払時期をめぐって争いとなり,売買契約を解除したのち防衛庁にこの土地を売った。被告名義になっていたこの土地の所有権の帰属をめぐる訴訟の中で,自衛隊の合・違憲性が争われた。裁判所(最高裁大法廷)1959・12・16(破棄差戻し)(札幌地裁)1967・3・29(無罪,確定)●長沼ナイキ基地訴訟一審判決福島裁判長らはまず,憲法9条の解釈に対する基本的な見解として「9条の解釈は憲法前文に示された基本原理の一つである永久平和主義に従ってなさなければならず,前文からは,わが国が侵略の危険にさらされるといった事態が生じた際にもわが国みずからが軍備を保持して武力で戦うことを認めるような思想はまったく見いだせない」と述べ,平和主義の理念を大前提とする立場を明らかにした。その上で「憲法第9条は第1項で侵略戦争を放棄し,さらに第2項で戦争の危険をまったく根絶するために自衛力をも含めた一切の軍備,戦力を放棄し,かつ交戦権をも否認したものである」と明確な判断を下し,「外敵に対する実力的な戦闘行動を目的とする人的,物的手段としての組織体が戦力である」と戦力の定義を示した。第一審(札幌地裁)1973・9・7(原告勝訴)→下記参照。第二審(札幌高裁)1976・8・5(原告敗訴)上告審(最高裁小法廷)1982・9・9(原告敗訴)第一審(水戸地裁)1977・2・17(国側勝訴)第二審(東京高裁)1981・7・7(控訴棄却)判決の憲法第9条解釈な措置を取りうる。わが国が平和と安全のために他国に安全保障を求めることを禁じていない。判決の要旨じまない(統治行為論)とした上で,9条が禁じた戦力は,わが国自体の戦力をさし,駐留米軍は戦力に該当せず,違憲とはいえないと判断した。問題の通信線は,自衛隊法121条にいう「防衛の用に供する物」に当たらないから処罰の対象とはならず,被告人は無罪。なお,憲法判断については,この裁判において,なんらの判断を行う必要がないとした。(注)自衛隊法121条自衛隊の所有し,又は使用する武器,弾薬,航空機その他の防衛の用に供する物を損壊し,又は傷害した者は5年以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。憲法9条は,戦力の保持について侵略的なものは明確に禁止しているが,自衛のための戦力には積極・消極の両論があり,国会,内閣の政治行為としてその判断に委ね,究極的には国民の政治的批判をまつべきである。憲法9条は,自衛目的の武力行使までは放棄していない。従って自衛に必要な限度の自衛権行使と,有効適切な防衛措置を組織,整備することは憲法に違反しない。憲法9条が自衛戦力の保持まで禁じたかどうか見解が多岐に分かれ,国民の間に一義的な意見の醸成を望むことは不可能に近い。住民側の不利益は代替施設の完備によって消滅していて,訴えの利益はない。三権分立の原則の下では,国の運営の基本に属する国政上の統治事項は,一見明白に違憲違法と認められない限り,司法審査の範囲外にある(統治行為論)。本件当時の自衛隊の実態は,憲法9条2項にいう「戦力」に該当するかどうかの法的判断は一見きわめて明白に違憲無効であると認められない限り,司法審査の対象とはなり得ない(統治行為論)。本件訴訟は自衛隊の合・違憲に判断を加えるまでもなく,結論を出すことができる,として自衛隊についての憲法判断を回避。上告審(最高裁小法廷)1989・6・20(上告棄却・憲法判断回避)判決はこれらの文理解釈を前提に自衛隊の実体に言及し,「陸上,海上,航空の各自衛隊は,現在の規模,装備,能力からみて,いずれも9条2項にいう“陸海空軍”に該当する」とずばりいい切り「自衛隊の違憲はもちろん,防衛庁設置法,自衛隊法など関連法規も違憲,無効である」と断定した。資料を読む違憲訴訟の軌跡憲法第9条をめぐる違憲訴訟は,砂川事件以来争われてきた。なかでも,長沼ナイキ基地訴訟の第一審判決(札幌地裁)は,自衛隊に対する最初の違憲判決であった。これに対して,百里基地訴訟の第一審判決(水戸地裁)は,「自衛のための防衛措置を組織,整備することは憲法違反ではない」との判断を示したが,自衛隊が9条2項にいう「戦力」に該当するか否かは,統治行為論を採用して判断を避けた。その後裁判所で合憲・違憲の判断は示されていない(3)。