ブックタイトル資料政経

概要

高校政治経済資料集

78 ?第2章日本国憲法の基本的性格●6●美濃部達吉「天皇機関説」●8●治安警察法（抄）〔美濃部達吉の弁明演説〕おいお私ノ著書ニ於テ述ベテ居リマス見解ハ，第一ニハ，天皇ノ統治ノ大権ハ，法律上ノ観念トシテノ権利ト見ルベキモノデハナクテ，権能デアルトナスモノデアリマスルシ，又第二ニ，ソレハ万能無制限ノ権よ力デハナク，憲法ノ条規ニ依ツテ行ハセラレル権能デアルトナスモノデアリマス。（中略）いわゆる所謂機関説ト申シマスルハ，国家ソレ自身ヲ一ツノ生命アリ，ソレ自身ニ目的ヲ有スル恒久的ノ団体，すなわ第１即チ法律学上ノ言葉ヲ以テ申セバ一ツノ法人ト観念この編イタシマシテ，天皇ハ此法人タル国家ノ元首タル地ましそう現位ニ在マシ，国家ヲ代表シテ国家ノ一切ノ権利ヲ総らんたま代の攬シ給ヒ，天皇ガ憲法ニ従ツテ行ハセラレマスル行政為ガ，即チ国家ノ行為タル効力ヲ生ズルト云フコトヲ治言ヒ現ハスモノデアリマス。1935（昭和10）年2月26日・官報号外●7●戦前の主な治安立法（1890年以降）名称（制定年）適用対象処分・刑量集会及政社法（1890）政党連合・支部設置禁止〃改正（93）政談集会（届出制）警察官禁止権出版法ちょうけんびんらん（93）出版届出・朝憲紊乱＊発禁→1949年軍機保護法（99）軍事機密漏泄・探知まで治安警察法（1900）結社・集会（届出制）女子の政治結社加入（禁止），労務団結・罰金10～50円禁錮１～６月同盟罷業（制約）行政執行法（1900）強制執行（公安妨害）予防拘束ぼうとく新聞紙法治安維持法（09）皇室冒涜・政体変改論（25）国体変革・私有財産制発禁・罰金懲役・禁錮10否定年以下暴力行為処罰法（26）団体・多衆の示威行為刑法特則重罰治安維持法改正国体変革・私有財産制懲役5年→（緊急勅令）（28）否定軍機保護法改正（37）スパイ団・防空妨害死刑懲役6月→死刑国家総動員法（38）違反出版・機密漏泄罰金→懲役〃改正（41）統制経済違反2年こうきん治安維持法改正（41）予防拘禁制を追加戦時刑事特別法（41）人心動揺時の刑事犯罪懲役1年→死刑＊国家の根本法を乱すこと。（家永三郎ほか『必携日本史』三省堂より作成）資料を読む自由抑圧の法整備天皇機関説は国家法人説（? p.51）に基づき，法人としての国家が統治権をもち，天皇は国家の最高機関であって議会は内閣を通じて天皇の意思を拘束しうるとする学説で，広く学界に広まり，日本の議会政治を理論的に支えてきた（6）。しかし，昭和10年には国体に反する不敬の学説として攻撃され，衆議院は第８条1あん安〔1900（明治33）年制定・昭和20年廃止〕ねい寧ため秩序ヲ保持スル為おい必要ナル場合ニ於テハ警察官ハ屋外ノ集会又ハ多衆ノ運動若ハ群衆ヲ制限，禁止若ハ解散シ又ハ屋内ノ集会ヲ解散スルコトヲ得。第10条集会ニ於ケル講談論議ニシテ前条ノ規定ニそみだおそれ違背シ其ノ他安寧秩序ヲ紊シ若ハ風俗ヲ害スルノ虞アリト認ムル場合ニ於テハ警察官ハ其ノ人ノ講談論議ヲ中止スルコトヲ得。第14条秘密ノ結社ハ之ヲ禁ス。●9●治安維持法（抄）〔1925（大正14）年制定・昭和20年廃止〕第1章罪こくたい第1条1国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スまたじょうルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シ又ハ情ヲ知リテ之ニちょうえききんこしょ加入シタル者ハ10年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処みすいス2前項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス〔1928（昭和3）年改正・緊急勅令〕第1条国体ヲ変革スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シそタル者又ハ結社ノ役員其ノ他指導者タル任務ニ従事もしくシタル者ハ死刑又ハ無期若ハ5年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ情ヲ知リテ結社ニ加入シタル者又ハ結社ノ目すいこうためな的遂行ノ為ニスル行為ヲ為シタル者ハ2年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者結社ニ加入シタル者又ハ結社ノ目的遂行ノ為ニスル行為ヲ為シタル者，10年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス（以下略）〔1941（昭和16）年改正治安維持法・法54〕かか第39条第1章ニ掲ケル罪ヲ犯シ刑ニ処セラレタル者おい其執行ヲ終リ釈放セラルベキ場合ニ於テ釈放後ニ於おそれテ更ニ同章ニ掲ゲル罪ヲ犯ス虞アルコト顕著ナルトキよこうきんハ裁判所ハ検事ノ請求ニ因リ本人ヲ予防拘禁ニ付スむねうル旨命ズルコトヲ得◆治安維持法の犠牲者（死亡者のみ）明らかに虐殺と考えられるもの拷問・虐待が原因で獄死したと考えられるもの病気，その他理由不明のもの65人114人1,503人合計1,682人（松尾洋『治安維持法』新日本新書）全会一致で天皇機関説に反対を表明した。また，明治憲法では法律によって国民の権利をいくらでも制限できるしくみになっていた（7）。その中心をなしていたのが治安警察法（8）と治安維持法であった。治安維持法は制定3年後の勅令による改正で死刑を含む重罰が定められ，さらに1941年の改正では予防拘禁制が追加された（9）。