ブックタイトル資料政経

ページ
16/162

このページは siryouseikei2015 の電子ブックに掲載されている16ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

高校政治経済資料集

10 ?――政治・経済便覧第2章戦争の放棄〔戦争の放棄,戦力の不保持・交戦権の否認〕第9条1日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実にいかく希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,ほうき国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。2前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。用語解説戦力戦争をおこなう能力をもった陸・海・空軍のような戦闘のための組織。国内の治安を守るための警察力はこれにあたらない。交戦権1国家の戦争をする権利,2国際法上,交戦国に認められた諸権利,の二説ある。憲法を読む・5戦争の放棄と自衛隊(第9条)●平和主義の宣言(前文と第9条の関係)日本国憲法は,前文の第一段で「日本国民は,さんか………政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」と憲法制定の動機を述べ,第二段で「日本国民は恒久の平和を念願し,……平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した。……われらは,全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを宣言する」と平和主義と国際協調主義を宣言している。そしてこの前文を具体化したのが第9条である。●第9条の解釈第9条1項は「国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する」と規定する。「国権の発動たる戦争」とは,主権の発動として宣戦布告によって始まる国際法上の戦争を意味し,太平洋戦争はこれにあいかくいとたる。「武力による威嚇」とは武力行使の意図があることを示して相手国をおどすことで,たとえば,1895年のさんごくかんしょう仏・独・露の日本に対する三国干渉や1915年の日本たいかの対華21か条要求がこれである。また「武力の行使」とは国際法上の戦争に至らない戦闘行為を指し,満州事変はその例である。これらの行為は「国際紛争を解決する手段としては」という条件で放棄され,また第2項の戦力の不保持と交戦権の否認の規定も「前項の目的を達するため」という文言によって限定されている。そこで,自衛や制裁のための戦争および武力の行使が許されるか否かについて見解の対立がある。A説は,すべての戦争は国際紛争を解決するためのものであり,自衛戦争と侵略戦争を区別することは困難であり,実際過去の戦争はすべて国際紛争を解決するために行なわれてきた。したがって第1項は自衛戦争を含むすべての戦争の放棄を意味し,第2項はそのために一切の戦力の不保持を規定していると説く。B説は,1928年のパリ不戦条約の「国際紛争解決のために戦争に訴えることを非とし」と同様に侵略戦争の放棄を意味するが,第2項で戦力の不保持を定め,また交戦権も認めていないから,結局一切の戦争を放棄したことになると説く。B説は多数説となっている。C説は,第1項についてはB説と同様に侵略戦争を放棄していると説くが,第2項の「前項の目的を達するため」とは侵略戦争をしないためであるとし,第2項は侵略戦争のための戦力の不保持であり,交戦権の否認であるから,自衛戦争及び自衛のための戦力の保持は許されると説く。D説は,50数年の間に国際的にも国内的にも情勢が変化し,憲法が持っていた意味にも変化が生じたとへんせん説く,憲法変遷説である。また第2項の「交戦権」についても学説は対立し,1戦争をする権利とする説,2国際法上,交戦国に認めりんけんられた諸権利(船舶の臨検,占領地行政など)とする説がある。最後に自衛権について,わが国の学説・判例にこれを否定するものはほとんどない。自衛権は他国かきゅうはくふせいらの急迫不正の侵害に対して国家の生存を確保する国家固有の権利であって,憲法がわが国の生存を根本的に否定するとは考えられないからである。ただ,これを個別的自衛権と集団的自衛権とに分け,憲法は集団的自衛権を認めていないという説があり,政府はこの見解を採用してきた。(? p.104)さて,憲法制定当初,政府はB説の立場に立っていたが,朝鮮戦争(1950年)をきっかけに米国の対日政策の変更からマッカーサーの指令によって警察予備隊が創設された。その後1952(昭和27)年に保安隊に改組され,1954(昭和29)年に自衛隊法と防衛庁設置法が制定されて自衛隊が発足した。このような経過とともに政府の解釈も変化し,自衛のためといえども戦力の保持は許されないが,国家は自己保存のために自衛権を有し,自衛のための戦力に至らない程度の実力すなわち自衛力の保持は許されるとしている。(? p.89)また判例も,長沼ナイキ基地訴訟における札幌地裁の自衛隊違憲判決,百里基地訴訟における水戸地裁の自衛隊実質合憲判決,このほか,高度に政治的なとうち行為は司法審査になじまないという統治行為論に立った判決,自衛隊に関する憲法判断を回避する判決など,たき多岐に分かれている。(? p.90)