ブックタイトル資料政経

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概要

高校政治経済資料集

「学習の基本構造」を読む1.憲法改正の規定法に要請される特質の一つは安定性である。とくに憲法は国家の最高法規であり,他の法律の根拠ともなる規範なので,安定性はより強く要請される。しかし,憲法も社会生活のための規範なので,社会の変化に応じて改正されないと,現実とかいりじゅんぽうしん法規範との乖離が生じ,国民の遵法心が消失することにもなる。各国憲法は一般に普通の法律より難しい改正手続きをもつ(硬性憲法)。例えば,1議会の特別多数や複数回の議決を必要とするもの,2国民投票による承認を必要とするもの,3特別の憲法会議を招集するもの,4連邦を構成する州の承認を必要とするもの,また1?4のいくつかを組み合わせるもの,など特別の手続きを必要としている。日本国憲法も96条で改正手続きを定めているが,国会による「発議」,国民による「承認」,天皇による「公布」の三段階の手続きを規定し,とくに「発議」の成立を「各議院の総議員の3分の2以上の賛成を必要」としており,さらに国民投票による「承認」を経なければならず,世界でも硬性の度合いが強い憲法になっている。憲法改正手続きによればどのような改正でも可能かという問題があり,限界説と無限界説が対立している。限界説は,憲法の性質を失わせるような基本原理の改正は法的には不可能とする。通説は,国民主権と平和主義と基本的人権の尊重の三原則は改正不可能であるとする。また通説は,平和主義については1項は不可能だが2項は改正可能とする。さらに,憲法改正手続き規定を含める説もある。これに対して無限界説は,憲法規定の形式的効力は同一であり改正可能あるいは不可しい能の区別は論者の恣意にすぎない,憲法改正の最終承認は国民主権のあらわれとしての国民投票で行うので,改正に限界を設けることは国民主権を否定することになる,などと主張する。なお,国民投票を行うのに必要な国民投票法は18歳以上の日本国民に投票権があるとしているが,この実現には関連法令の改正が必要となる。2.憲法改正の動向日本国憲法に対しては,その成立の経緯からア第6節憲法改正問題? 151メリカから押しつけられた憲法であるとする批判がある。この「押しつけ憲法論」は自主憲法制定の主張につながり,保守勢力の一部に根強く存在する。ようご一方,社会党などの革新勢力は憲法を擁護する立場をとり改憲の動きに対抗してきた。こうした<保守=改憲vs.革新=護憲>の対立の構図は政界の55年体制の基本軸の一つとなっていた。しかしその間,自民党は改憲に必要な国会議員の3分の2を確保することができず,社会党などの革新勢力が改憲論議それ自体を拒否するなかで,困難な問題は先送りして予算や法律案の成立だけを求め,改憲論はいわばタブーと化した。その最たる論点が安全保障で,自民党は明文での改憲をめざすことなく,問題が起こると解釈で切り抜けるびぼうさくことを繰り返し,「解釈改憲」という弥縫策をとってきた。これに対して野党第一党であった社会党は,改憲反対の立場で自衛隊や日米安全保障条約の違憲を主張し,与野党の議論は,自衛隊は違憲か合憲か,という原則論の論議に終始した。3.憲法改正の論点1991年に湾岸戦争が発生すると,国際貢献論議が高まり,自衛隊が違憲か合憲かという従来の論議から,世界平和のためにどのように貢献するのかという一歩進んだ議論がでてきた。また,政界再編が進むなかで,社会党(社民党)は勢力を減退させ,与野党含めて保守勢力やかつての中道勢力が多数を占めるようになって憲法見直し論議が高まり,2000年両議院に憲法調査会が設置され,2005年に報告書を議長に提出した。また近年の主要各紙の世論調査では,いずれも改憲の支持者が反対を上回り,国民の間でも何を改正するかは別にして,憲法改正にタブーがなくなってきている。憲法改正の論点の主なものとして,前文の見直し,国家元首の明確化,自衛のための戦力の保持の明記,集団的自衛権も含め自衛権の明確化,非常措置規定,国際協力規定,環境権やプライバシー権など新しい人権の追加,国民の義務の強化,両院の権能の見直し,首相公選制,憲法裁判所,裁判の迅速化,国民審査制度の見直し,私学や福祉施設への助成の明記,地方分権,改正手続き,などがある。新しい動き/視点憲法改正の可能性/この間,国会には憲法改正に向かおうとする動きが働いている。政局の変化によって,その動きが鎮静化する時期もあるが,改正の発議条件を満たす多数の形成が可能となった場合,一挙に具体的な改正手続きに進むこともありうる。例えば,2012年の消費税増税法案の国会通過を可能とした民主党・自民党・公明党の三党合意は,憲法改正に向けた予行演習だったとみることもできる。いずれにせよ,憲法は国のあり方やビジョンを表現する重要な法規である。経済成長と冷戦の時代を支えた現行憲法のどこをどのように変えるのか,充分に民意を反映した議論が基礎になければならないだろう。第1編現代の政治