ブックタイトル資料政経
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高校政治経済資料集
●6●自己決定権??「エホバの証人」訴訟【事件の概要】「エホバの証人」の信者だった女性が,「信仰上の理由から輸血を拒否したのに,手術の際に無断で輸血をされて精神的な苦痛を受けた」と主張して,東大医科学研究所付属病院に損害賠償を求めた。この女性は悪性の肝臓血管腫と診断され,東大医科研を「無輸血手術をする病院」として紹介された。女性は輸血拒否の意思を医師に伝えたが,医師は手術時に出血性のショック状態にあったことを理由に輸血した。女性は手術後5年たった1997年に死亡した。【裁判所の判断】●東京高裁判決(1998.2.10)東京高裁は「医師には,ほかに救命手段がない事態になれば輸血する,という治療方針の説明を怠った違法がある」とし,原告敗訴の一審判決を変更,病院を運営する国と医師に約55万円の支払いを命じた。判決は,医師の説明義務違反の有無を検討。「今回のような手術を行うに際しては,患者の同意が必要であり,それは尊厳死を選択する自由も含めて,各個人が有する自己の人生のあり方は自らが決定するという自己決定権に由来する」との判断を示した。被告側は「輸血の必要性を説明すれば,手術を拒否されると思って,あえて説明しなかっただけで違法性はない」と主張したが,裁判長は「被告の主しりぞ張は患者の自己決定権を否定するものだ」と退けた。(『朝日新聞』1998.2.10)●最高裁(小法廷)判決(2000.2.29)上告審判決は医師・国側の上告を退け,「宗教上の信念から輸血を伴う医療行為を拒否するとの意思決定をする権利は,人格権の一内容として尊重されなければならない」と指摘。医師は手術で輸血が必要な事態が生じる可能性があることも認識しおこたていたにもかかわらず,女性への説明を怠ったと認いな定し,「手術を受けるか否か意思決定をする女性の権利を奪い,人格権を侵害した」と結論付けた。(『日本経済新聞』2000.2.29)資料を読む自己決定権をめぐって「エホバの証人」は1870年代にアメリカで始まったキリスト教の宗教団体で,わが国には22万人の信者がいる。輸血以外の医療を選択することを信条としている。東京高裁の判決は患者と医師との間の「インフォームド・コンセント」(十分な説明と同意)の前提となる患者の自己決定権を認めたものとして重要だが,最高裁は「人格権の一内容」という表現にとどまり,自己決定権の議論に踏み込むことをしていない(6)。第5節新しい人権? 143●自己決定権との関係で取り上げられている事柄1自己の生命・身体に関する事柄インフォームド・コンセントを前提とした,いかなる治療を受けるかの決定,延命治療拒否(尊厳死),積極的な安楽死,臓器移植を認めるか否かなど2家族のあり方や,リプロダクションに関する事柄結婚するかしないか,子どもを産むか産まないかの決定や,避妊あるいは人工妊娠中絶に関する事柄など3ライフ・スタイルに関する事柄服装や髪型の決定など4危険行為に関する事柄ヘルメットやシートベルトを着用するか否かの決定,登山や遊泳,単独航海などの危険行為を行うか否かの決定など(抱編『新・初めての法学』などより)自己決定権といっても,人権が一般にそうであるように,絶対無制限のものではありません。ここでも,他者加害禁止原理に基づく制限があります。また,そのほかに,自己決定権を制限することを可能にさせるかもしれない原理として,以下の2つがあげられます。第1は,パターナリズム(温情的介入主義)であり,それは,本人の利益のために自由を制限してもよいという考え方です。第2は,モラリズム(道徳的介入主義)であり,それは,公共道徳を維持するために自由を制限してもよいという考え方です。ただ,この2つの原理(とくに後者)を認めるには,かなりの慎重さが必要です。(戸波江二編「やさしい憲法のはなし」)▲臓器提供意思表示カード(ドナーカード)第1編現代の政治