ブックタイトル資料政経
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高校政治経済資料集
判例朝日訴訟??生活保護基準と生存権の保障【事件の概要】朝日茂さんは,1942(昭和17)年以来,肺結核のため国立岡山療養所に入所し,単身で無収入のため生活保護法による医療扶助および月額600円の日用品費を内容とする生活扶助を受けていた。ところが,昭和31年8月以降,長い間音信不通であった実兄から民法上の扶養義務に基づき月額1,500円の仕送りを受けることになったので,津山市福祉事務所長は1,500円のうち600円を日用品費に充当させることにして生活扶助を廃止し,残額900円を医療費の一部自己負担とする保護変更決定をした。朝日氏は,同決定を不服として,岡山県知事さらに厚生大臣に不服申立をしたが,却下された。そこで朝日氏は,厚生大臣が定め項目年間数量月額た生活保護基準による日用品費600円では,肌パン着ツ2年1着1枚16.66円10.00肌着2年1着,パンツ1年に1枚,チリ紙手ぬぐい2本11.66特別衣料特別基準1月に1束などの内訳たび1足12.50のように,日用品購入げた1足5.83費として全く不足してぞうり2足21.66おり,さらに食欲不振の重症結核患者として理髪料12回60.00石けん洗顔12個バター,卵,果物など70.00洗濯24個の補食費が療養所の歯みがき粉6個7.50給食以外に絶対に必歯ブラシ6個7.50要であるから,日用品費600円の基準額が,チリ紙12束20.00はがき24枚10.00憲法および生活保護切手12枚10.00法の規定する「健康で封筒12枚1.00文化的な生活」を維持新聞代150.00用紙代20.00するに足りない違法な鉛筆6本5.00ものであると主張して,茶3斤40.00厚生大臣の不服申立却下裁決の取り消しをその計他8.96600.00円(当時は,教員の初任給が約9000円であった。)求める訴訟を起こした。資料を読むプログラム規定説生存権の法的性格については,憲法25条は国の責務を示したに過ぎないとする,いわゆるプログラム規定説と,憲法25条が法的権利として生存権を保障するとする法的権利説(抽象的権利説が主流)とがある。朝日訴訟は,憲法25条を具体化する生活保護法に基づく保護基準の違憲性を争った訴訟であるが,一審判決は,憲法25条に裁判規範としての効力を認める法的権利説の立場に立っていたのに対して最高裁判決は,「個々の国民に具体的権利を付与したものではない」とするプログラム説を採用した。この裁判は,生存権の保障と国の責務に関して,大きな課題を残し,以後の社会保障行政に大きな影響を与えた。第4節基本的人権の保障? 131【厚生省側証人の証言】「身廻品といたしまして,ぞうりだの,げただの,こんどは保健衛生費といたしまして,ちり紙,せっけんなんていうものがあるのでございますが,……日本国民の中で,ちり紙で用をたすという方がどの位あるか……。歯ブラシも歯みがきも使えない方が,1千万近くあると推定しておるんです。その中で歯ブラシ,歯みがきが使え,体温計まで買えるというようなことまでなっておりますと,足りないながら日本としましては,文化的水準において保護は行っていると考えなければならない。」早大教授末高信氏の証言)【裁判の経過】●一審東京地裁の判決(1960.10.19,朝日氏勝訴)「憲法25条がいう健康で文化的な最低限度の生活とは,……人間としての生活を可能にするものでなければならない。……月600円の生活扶助基準の日用品費は,患者にとって十分でなく,憲法25条の理念と生活保護法に反する。」●控訴審東京高裁の判決(1963.11.4,国側勝訴)「月額600円の日用品費は,すこぶる低額という感じはするが,……違法とまでは断定できない。」(1964年,朝日茂氏が50歳で死亡したため本件訴訟は養子の朝日健二・君子夫妻に引き継がれた)【最高裁(大法廷)の判決】(1967.5.24,国側勝訴)「この種の行政訴訟で原告が死亡した場合,相続人に訴訟の継続は認められない。……本件訴訟は,上告人の死亡によって終了した。」「この規定(憲法25条)は,すべて国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運用すべきことを国の責務として宣言したにとどまり,直接個々の国民に対してふ具体的権利を賦与▲最高裁判決後,記者会見する朝日さんの遺族よしたものではない。具体的権利としては,憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によって,はじめて与えられるというべきである。……何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は,いちおう,厚生大臣の合目的的な裁量に委かされており……」とし,本件生活扶助基準に対しては,「厚生大臣の認定基準は,与えられた裁量権の限界をこえまたは裁量権を濫用した違法があるものとはとうてい断定することができない。」と判示した。第1編現代の政治