ブックタイトル資料政経
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高校政治経済資料集
「学習の基本構造」を読む1.アメリカの新軍事戦略と日本第二次世界大戦後,長く続いた米ソ対立=冷戦は1989年に終結が宣言され,91年にはソ連が崩壊した。これは,政治・経済・軍事などあらゆる面で世界の枠組を変える出来事だった。ソ連をはじめとする社会主義陣営を仮想敵国として維持されてきた日米安保体制も当然その見直しを求められた。冷戦後の世界の動きに対応した日米安保体制のあり方を決定したのはアメリカの新しい軍事戦略であった。アメリカは冷戦が終わった1990年代以降急速に進展した世界経済のグローバル化にともなって,まさに地球規模に広がったみずからの国益を確保するために,世界全体をカバーする軍事戦略を打ち出した。それが「即応展開戦略」と呼ばれるものである。アメリカは軍事技術のハイテク化を進め,軍隊の機動力を高めることで,世界のどの地域で紛争が起こっても迅速に兵力を配備できる戦略を構築したのである。このアメリカの戦略が最初に大規模に実施された例がイラクのクウェート侵攻への制裁として戦われた1991年の湾岸戦争であった。そして,この湾岸戦争をきっかけに日本国内では,有事(=戦争)に対応する法律の整備の必要と国際社会への「貢献」が議論されるようになった。その背景にはアメリカからの強い協力要請があった。また後者の議論はPKO協力法として一応の形をとった。これは国連の枠内ではあるが自衛隊の海外派遣に道が開かれたことを意味する。2.日米安保体制の再編と強化日米間での安保体制の見直しを本格化させたのは1996年の東京での首脳会談で発表された日米安保共同宣言である。そして,安全保障に関する日米のパートナーシップが強調された同宣言の趣旨をさらに具体化するために結ばれたのが97年の新ガイドライン協定である。これは冷戦時代の1978年に,安保条約を具体的に運用するためのマニュアルとして日米間で取り決められた旧ガイドライン協定を改定したものである。この協定は,安保条約がその適用範囲として明示している「日本国の安全」と「極東における国際の平和および安全」第3節冷戦後の安全保障? 99とは別に「周辺事態」という言葉を使用し,協定はその「周辺事態」に対応をするものと規定した。これにより,在日米軍とその後方を支援する自衛隊の行動範囲(=安保条約の適用範囲)は,解釈次第で大きく拡大することになった。このように日米間の事務レベルの交渉によって結ばれたこの協定は,安保条約を実質的に改定する内容を含んでいる。そして,この新ガイドライン協定に国内法を対応させるために制定されたのが周辺事態法である。これは有事(=戦争)に国民をどのように管理動員するかを決める初めての法律で,こうした有事法制の整備はその後も進められた。3.問われる「平和主義」冷戦終結時,安保条約をどうするか,自国の安全保障をどう確立するかについてはいくつかの選択肢があったと思われるが,日本政府はアメリカの軍事戦略にひたすら追従する道を進んできた。それは,2001年にアメリカで起こった同時多発テロ事件以降,「テロとの戦争」を名目にアメリカがおこなった軍事行動に歩調をあわせ,インド洋から中東にまで自衛隊を派遣したことに示されている。すでにここでは国連の枠組や「周辺事態」の枠さえも外れた派遣となっている。また,周辺事態法に始まった有事法制についても,在日米軍や自衛隊の作戦行動を円滑に進めるための武力攻撃事態対処法や,有事において国民の権利を制限することになる国民保護法が制定され,より体系的な形が整えられてきている。これらの動きは,憲法の平和主義だけでなく,基本的人権の尊重の原則にまで抵触する内容を含んでいる。2014年7月,日本政府は集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。これは,「わが国に対する武力攻撃」に対してだけでなく,「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した場合でも,自衛隊が武力行使することを認めたことを意味する。自衛隊が発足して60年,専守防衛に徹することを建て前としてきたわが国は,解釈改憲(?p.150)の形をとったこの決定によって,他国の戦争に加わる可能性を自ら選択したことになる。ここで「他国」とは明確にアメリカを指す。アメリカとの軍事同盟の深みに自ら一層深くはまり込むことを日本は選んだのである。新しい動き/視点集団的自衛権の行使容認/2014年の安倍内閣による集団的自衛権の行使容認にはどのような意図があるのか。この間の中国の軍備増強と西太平洋地域への海洋進出は,とくに尖閣諸島の帰属問題を抱える日本にとって脅威であることは事実だ。そうした背景のなかでアメリカとの軍事同盟の強化は不可避との判断がなされたのか。しかし,経済をふくめ高度に緊密化した国際関係をアメリカの立場から見た時,つな日米関係が米中関係以上に重要であるという保証はどこにあるのか。そのアメリカを繋ぎとめるために,自衛隊は世界のどこへでも戦争をしに出かける,そんなことを今回決めたのではないだろうか。第1編現代の政治